阿部 華奈『道-演劇場 みなとみらいにおける新しい演劇場の提案』(2019年度Diploma Design Prize 金賞)
「現代の劇場建築は機能的にしようとするあまり、演劇空間として面白いものが生まれていない」という演出家の言葉をきっかけに、「演劇をつくりたくなる」「演劇を観たくなる」劇場、舞台と客席、そして劇場内外の空間的関係が強い劇場を目指した作品である。敷地はみなとみらい線新高島駅に接する未利用地である。周辺建物を結ぶ仮想的な線を「あやとり」のように敷地に巡らせ、その線形から建築の形状を導くという作者独自の手法により、駅からの主要動線をデザインの一部に取り込んだ全体形状が生まれた。日頃から演劇鑑賞を趣味としている作者ならではの劇場空間に対するまなざしと、堂々とした造形プロセスが、高度に融合した作品である。
今井 菜月『空き地建築群 ~コインパーキングに作られる外部空間~』(2019年度Diploma Design Prize 二次選考ショートリスト)
作者は提案に先立つリサーチの段階で、都市内のバナキュラーな「余白」=「人が手を加える余地のある場所」の豊かさを発見し、次いで計画敷地とした関内エリアの空撮写真を時系列に沿って比べることで、一般的には土地の一時的な姿と思われている「空き地=低・未利用地」が、実際は多くの場合、長年その状態のまま保たれていることを発見した。この提案では、実は空き地こそが都市の印象を左右する要素なのではないかという仮説に基づき、空き地の特性を保ったまま人の居場所を作り出すことが試みられている。いわば「余白の空間化」である。多くの提案箇所にも関わらずデザインに一貫性があるのは、丁寧なリサーチに基づいているためである。
小林 磨奈『まちの自由席 新たな町の境界に記憶の可視化を施して』(2019年度Diploma Design Prize二次選考ショートリスト)
鉄道の地下化によって地上に生じた線形の土地に、さまざまな世代の人々が自由に使える場所と、そのきっかけを生み出すような構築物が提案されている。一種の公園のようなものとも言えるが、敷地と周囲の既存建物、あるいは街と駅を「つなぐ」ような提案のあり方や、かつてそこに線路があったことを想起させる構築物の形状に特徴がある。線形の土地に多様な場所を生じさせるために、既存の(別の)公園の一部を切り取って「引越し」させてくるというアイデアはユニークで、こうしたアイデアや、この場所で行われる人々のさまざまなふるまいが、作者独自のユーモラスなイラストによって生き生きと表現されている。
齋藤 晴菜『暮らしをひらく 併用住宅による団地コミュニティの活性化』(2019年度Diploma Design Prize 二次選考ショートリスト)
東京都町田市の丘陵地帯で1960年代後半に整備された巨大団地の中心部に、併用住宅群による新たな長屋状の棟を提案する計画である。敷地には現在、かつて団地の生活を支えていた商店街があるが、住民の年齢層や購買行動が変化した現在、その多くがシャッターを閉じている。この計画は、この場所に「小さな商業/公共性」を持った職住一体の併用住宅を誘導することで大規模店舗とはその役割を分け、周囲の住棟と一体となる団地の新たなコミュニティの核を作り出そうとしている。敷地選定の適切さ、丁寧に計画された平面と立面、周囲との連続性を保ちつつ広場を作り出す住棟配置、更新可能な建築の建てられかたなど、見所の多い作品である。
田中 亮『名もなき空間』(2019年度Diploma Design Prize二次選考ショートリスト)
木々が生い茂る森、洞窟内部の大空間、川によって削られた岩の隙間など、単一要素によって形成された自然界の空間が持つ力に魅了された作者が、人々にそのような力を感じさせる空間を建築的要素によって作り出すことを目指した作品である。敷地は東京の上野公園内にある不忍池が設定され、その上に、正三角錐の各辺を基準とした三次曲面のユニットが連なり、木漏れ日のような光が降り注ぐ空間が形成されている。蓮の葉が浮かんだ池に映る姿は幻想的でもある。機能を超越し、ただ純粋に人の心を動かす空間を探求することは建築に向かう本質的衝動であり、この作品では巨大な模型と多くのドローイングによって、そのことが力強く宣言されている。
江川 冴『巣みか 生活から選択する働き方』(2019年度Diploma Design Prizeノミネート)
伊藤 暖『50%建築 平時と有事で可変する防災拠点』(2019年度Diploma Design Prizeエントリー)
大﨑 雅也『街中のあぜ道』(2019年度Diploma Design Prizeエントリー)
佐藤 裕紀子『雫から生まれる場所 ~新しい空港ラウンジの提案~』(2019年度Diploma Design Prizeエントリー)
平尾 優衣『まちの玄関口 〜まちに寄り添った駅と駅前広場〜』(2019年度Diploma Design Prizeエントリー)
手塚 峻介『 新時代の場 』
藤原 翔大『コンカレント・ガーデン 細分化されていく敷地への提案』
堀場 成美『近いようで遠い人と物、人と人』
三橋 葵『鎌倉らしさ』