亀山岳司『低・未利用地の利活用による中心市街地の活性化 −新潟県長岡市の図書館建て替えをモデルとした提案−』
新潟県長岡市の中心市街地を敷地として選定し、再開発を提案するプロジェクトである。本計画は、これまで各地で行われてきたスクラップアンドビルドによる再開発、あるいは既存商店街の活性化とは視点を異にし、街区内に虫食い状に存在する低・未利用地に着目し、中心市街地に対して街区の「裏側から」新たな価値を付与するとともに、「雁木システム」と名付けた歩行者ネットワークを構築しようとしている点に特徴がある。衰退する中心市街地の「シャッターを開ける」ことは、高度に社会的・経済的な問題であるが、本計画は中心市街地に「もう一つのレイヤー」を重ねるという発想から、建築的な提案に結びつけている点が興味深い。
長尾将孝『「組木」を用いた新たな木質建築の提案 –横浜市中区黄金町を対象として−』(JIA「第15回大学院修士設計展2017」2次審査9選選出)
横浜市中区黄金町の京急線ガード下を計画地として選定し、「組木」を利用した大規模な木質構造をテーマとして、空間を製作したものである。本計画は木質構造を利用した近年の建築動向について多数の調査を行なった上で、未だ建築には応用事例のない「六本組木」に着目し、提案を行なっている。まず、部分模型で施工性と最適な断面寸法等を検証し、続けて、外壁・屋根・建具・家具などのおさまりも、ひとつずつ検討されており、説得力は高い。修士研究では一般的な図面および模型による提案に加えて、木材による実寸の空間モックアップを製作した作者の計画性と実行力は特筆に値する。
松原裕太『旗竿状敷地を積極的に活用した新たな住宅街の提案 −新しい普通の住宅街を目指して−』
京都市左京区の一角を敷地として設定し、一街区全体を設計するプロジェクトである。現在の建築基準法で求められる接道要件および道路幅員を考慮に入れながら、京都だけでなく、いまや全国で失われつつある路地空間を復活させ、今後の住宅地のあり方を再定義するべく、意欲的な提案が行われている。作者が注目する「旗竿状敷地」は、現在のわが国では、正方形に近い宅地の方が不動産価値が高いという固定観念から、その多くは土地分譲時に目先の営利目的で生み出されているのが実情である。本計画は、一般的に建築家には嫌われている「旗竿状敷地」の持つ空間的可能性と価値について、新たな観点から考察し、提案に結びつけている点が興味深い。